A wounded heart

 

 

セフィロスが火傷を負った。

 

「煩い奴だな」

左腕に包帯を巻く少し緩慢な動作に「大丈夫か」を連発するザックスに彼が開口一番放った言葉は鋭いものだった。

利き腕でないからか、セフィロスは何回かその作業を繰り返している。

「俺やろうか?お前やりにくいだろ」

ザックスの申し出にセフィロスは瞼を伏せた後、「頼む」と腕を伸ばした。

包帯の白と腕の色が同化してそれが益々、痛い。

自分ではなるべく表情に出さないようにはしていたのだが、彼は悟ってしまったようで

セフィロスが呟いた「すまない」にザックスは首を振った。

「いいんだ。お前の思ってることとは違うから」

セフィロスの言葉が意味するものとザックスの思うことでは根本的に違いがある。

それをザックスは今、この時に言うつもりはないしセフィロスもセフィロスでそれを問い質す真似もしなかった。

自分達の間には無言の海があることを彼等はよく知っていた。

それを埋めるのはまだ、この時ではない。

隠されていく肌を名残惜しげに撫でるとセフィロスの怪訝な視線が突き刺さる。

ザックスはそれに気付かない振りをして問いかけた。

「お前さ、何でこんなケガしてくるんだよ」

普段彼は決して怪我など残してこない。

ソルジャーとなれば一つや二つで済まない銃創も、刀傷もセフィロスには無縁のものだった。

それはすべやかな肌に触れたザックスが知っている。

だからどうしてこんな傷を負ったのかが気になって仕方がなかった。

マテリアを使えばとうに治っているだろうその、傷。

「何でケアル、使わなかったんだ?」

馬鹿げていると自分でも分かっている。

セフィロスが何を考えて何をしようが自分には関係がないのだ。

それでも、と思う。

セフィロスの心を知りたかった。

 

「ケアル使えばこんな傷すぐ治るだろ」

ザックスの言葉にセフィロスは答えることなく、その若い林檎の瞳は何処か遠くを見つめていた。

「セフィロス」

明瞭な声で名を呼べば彼がゆるゆると顔を向ける。

「今回の任務そんなに大変だったのか?」

ただ空白を埋めるだけの問いかけにセフィロスは薄い唇を開いた。

「そんなことはない」

「ならどうして」

「ファイアを使ったら爆発に巻き込まれただけだ」

「爆発って...」

想像もつかないその姿を頭に浮かべようとしてザックスは口を噤んだ。

「熱風にあてられた」

セフィロスは右手で怪我をした箇所を擦った。

「コートも焼けてしまった」

淡々と語る口調に感情の色は見られない。

「セフィロス」

どうして、という言葉は外に出されることなく飲み込まれた。

けれどセフィロスは自分の名を呼ぶ声に問いが投げかけられていることに気付いていた。

「ザックス」

呼びかけられる立場となったザックスはその玲瓏とした顔を見つめ、僅かに顔をしかめた。

セフィロスの言葉が頭に重く響く。

 

「俺が怪我をしようとどうなろうとお前には関係ない」

ありありと浮かんだ傷心の表情がセフィロスの瞳に映る。

その彼は何かを言いたそうに顔を歪め、静かにかぶりを振った。

そうしておもむろにセフィロスの焼けた腕に触れ、悼むように瞼を閉じた。

「俺はお前がケガなんてしてきたら不安で堪らない。お前には関係なくても、俺は悲しい」

ザックスは呟き、そっとその身を抱き寄せた。

強く抱かないことが非難なのだと気付いたセフィロスの唇が動きかけ、止まる。

「お前が傷ついたりするのは嫌だよ」

ザックスの指先がセフィロスのシャツを手繰り寄せ、熱い体温が伝わる。

そのまま二人は何も言わず、ただ、互いの鼓動を聞いていた。

白いセフィロスを包む包帯がやけに目に痛かった。

 

早く、こんなもの取れればいいのに。

ザックスは心の底からそう思い、彼の言動を考え、泣きそうになった。