恋路の果て 2

 

 

好きだ。

そっと、触れる手から力が抜けた。

字面にすれば何と呆気ないことか。

そうは言ってもそれはセフィロスにとって無縁の感情であり、言葉であった。

けれどセフィロスはその感情を知らなかったわけではない。

そう、呼び覚まされたのだ。ザックスによって。

揺り起こされた感情は揺り起こした本人でなければ抑えられない。

窺う彼の表情は驚愕に満ちていた。

思わずセフィロスは呼んでいた。

自身の感情を揺さぶってやまないその人を。

当の本人は予想だにしなかった展開に、何一つ言葉にすることが出来ない。

伝えたいことなら多々あった。伝えなくてはいけないことも。

ザックスの息が漏れる。それは溜め息ともとられかれないものだったが、そうではなかった。

そう、それは安堵。嘆息の日々の終焉を告げる吐息。

目線一つ程高いセフィロスの肩にザックスはもたれかかる。

伸ばされた腕はセフィロスの身体を絡め取り、引き寄せる。

 

同じだ。俺も。お前が、好きだ

囁かれる声にセフィロスはその身を震わせた。

ザックスの腕が、声が、その全てが心をくすぐりあげていく。

ここまで近くで他人の体温を感じることはなかった。

こんなにもその温もりが落ち着くものだとは知らなかった。

流れる銀糸をかき分けて、ザックスの手が頭部に添えられる。

疑問を浮かべる前に彼の唇が眼前に迫っていた。

 

そっと、触れて、離れる。

本当にそれは一瞬で目を閉じることさえする間はなかった。

かさついた唇は女のそれと比べて柔らかさも肉の厚みも無い。

けれどそれこそが互いに求めていたものであることは瞭然だった。

ザックスが笑いかけようとしたその瞬間、唇は再び塞がれた。

それは彼からではなく、セフィロスからの口付け。

彼もまた飢えていたのだと知るのには充分過ぎる強さだった。

噛み付くような行為はまるで捕らえようと言わんばかりにザックスの呼吸を奪っていく。

その息苦しささえも甘受する彼は強く、セフィロスの背を抱き締めた。

どんな顔をすればいいのか、などという当初の悩みは消え失せていた。

幸福がザックスの心の杯を満たしていく。

それはセフィロスとて同じであることは重ねた唇が物語っていた。

触れ合う肌が温かさをもたらし、幸せという感情を与える。

 

 

こういうことだったのか。

セフィロスの閉じた瞼の裏側に過去の情景が浮かぶ。

『恋ってさ、苦しいこともあるけどそれ以上に幸せになれるはずだから』

恋によってもたらされた懊悩は、恋によって昇華された。

何故ザックスなのかは分からない。

しかし小難しいことを考えるのは後でも遅くはないだろう。

ただ今はこの温もりを味わいたかった。

二人が言葉を交わさなくなるまで、そう時間はかからなかった。