solitairement

 

 

それは芯を震わすような泣き声だった。

 

寝付けない身体は水分を求め、睡魔を遠くへと追いやる。

セフィロスは慣れきった感覚に溜息を漏らしながら自室からリビングへと足を踏み出した。

だから、その音に気付いたのは全くの偶然で。

 

転がり込んできた同居人にあてがった部屋にセフィロスが気を巡らすことは今まで一度もなかった。

何故なら彼は全くといっていいほどその同居人が自室で何をしているかなどに興味を抱かなかったからだ。

けれど今現在だけは一体何があったのかと扉一枚で隔たれた向こう側に意識を寄こす。

元来防音装置が整備されている家ではない。

こんな深夜に無音の状態ではその音はセフィロスの耳を確かにつんざいていた。

ノックをするため上げた手を彼はすんでのところで止める。

自らが入ったところでこの同居人に何を言えばいいのかが分からない。

 

彼が心を震わせている出来事に心当たりがあった。

ミッション中の事故だったと聞く。

報告を受けた瞬間の彼の表情は悲しみというより怒りに満ちていた。

握り締められた拳の硬さをセフィロスはすぐさま思い返すことが出来る。

『知り合いか』

『同期だったんだ』

セフィロスは「そうか」としか言えなかった。

今でもそうだろう。

自分は事実を知ることは出来ても、癒す言葉を与えることは出来ない。

 

時折響く鈍い音は彼が壁を殴っている音だろう。

それが悲しみを発散させるためならば好きにすればいい。

お前が望むなら手合わせだって。

けれど彼がそんなことを望んでいるわけではないことぐらい、セフィロスには充分分かりきっていた。

望まないことなら知っている。それなのに彼のして欲しいことが何一つ思いつかない。

虚しい時、一人でいたくなかった時、彼は何も尋ねず自分が望むことをやってのけた。

何度それに救われただろう。

そしてどうしてそれが自分には出来ないのだろう。

扉へ触れればひんやりとした無機質な冷たさがセフィロスの掌に伝わる。

その瞬間ひときわ大きく上がった呻き声に彼は悼ましげに瞼を伏せた。

 

 

けれど、セフィロスは彼が漏らした名の持ち主に全く心覚えがなかった。

彼が痛みを覚えたのは同居人その人だけ。

セフィロスはその時初めて『絶望』という言葉の意味を知った。