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向けられる視線にそれまでは感じなかった欲を、熱を、悟るようになったのはつい最近のこと。

いつからなのか、何故なのか、そんなことは知る由もない。

またどうして自分がそれを受けたのかも、上手く言葉にする術が無い。

ただ、アイツの瞳が濡れる様は綺麗だと思ったからなのかもしれなかった。

 

 

「セフィロス」

熱に浮かされ、子が母を求めるようにザックスが愛しい人の名前を呼ぶ。

咎めるように、労わるように、求めるように。

セフィロスは出会った頃から幾分太くなった腕に抱かれる度、増していく力強さに驚きを隠せない。

髪、額、頬、そして唇。

いつも飲み込まれそうだと思うのは彼の唇が自分のものより厚いからだろうか。

脈絡のない考えはいつだってザックスによって運ばれては持ち去られていく。

そういえば今この状態はあいつの言う『いい場面』とやらだ、とセフィロスは考える。

目の前にはザックスの身体があり、普段は目に触れない傷痕が彼の瞳を惹きつけた。

おもむろに伸びた白い手がそれをなぞるとザックスはくすぐってーよと身をよじる。

「何?」

その腕を簡単に捉えたザックスの目が映すセフィロスは柔らかい笑みを零していた。

その蟲惑的とも言える表情に男の欲がそそられる。

重ねられた手の滑らかさが今、こうして彼と共にいられることの喜びを改めて感じさせるのであった。

「冷たいな」

ふと漏らされた言葉にザックスは眉を寄せ「そうか?」と呟く。

普段なら冷たいと文句を言うのは自分であり、首を傾げるのは彼であったはずだ。

「逆だな」

セフィロスが笑い、それにつられるようにしてザックスも口角を上げた。

ふと、互いが気持ちを共有する瞬間がある。それが増えれば増えるほどザックスの心は満たされる。

それがセフィロスも同じであれば嬉しいなどと思うのは心底惚れているからだろうか。

―まぁいいか。

今更考えても仕方のないことを放棄する。

今ここにいるのは自分と愛しいその人だけ。そんな状況下での考え事など無粋極まりない。

かさつき始めた唇を落とせばセフィロスの柔らかな肌が受け止める。

「ザックス」

掴まれていない片腕でセフィロスがザックスの頬を撫でた。

それが二人にとっての合図。

ようやくザックスはセフィロスの腕を離し、唇を重ねたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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セフィロスへ

 

悪い、帰ってきたら約束してたレストランには行けそうにない。

今回の任務はちょっとばかしこっちが不利みたいだ。

このメールも無事に届くか分からない。

でもセフィロス。どうしてもお前に言わなきゃいけないことがあったんだ。

お前が楽しみにしてたワイン、飲んだのは俺だ。すまない。

あとコーヒーの豆切らしたのはお前だって言い張ったけどあれも俺だ。悪かった。

 

今お前画面閉じようとしただろ?

止めてくれよ。俺の最期の言葉かもしれないんだ。

頼むから最後まで読んでくれ。

こんなことが言いたいわけじゃないのはセフィロス、お前が一番良く分かってるだろう?

 

なぁセフィロス。

俺がもしお前の所に帰らなくても頼むから自棄になるなよ。

俺は俺にとってセフィロスが特別なように、お前にとっての俺も特別だったって自惚れてるんだ。

だから、俺がいなくなった後のお前を考えると心配で堪らない。

なぁセフィロス、頼むから誰かを頼ってくれ。

それが誰であっても俺は妬いたりしないよ。

―ちょっとは妬くかもしれないけど。

セフィロス、最初はお前のことを皆英雄だって呼ぶかもしれないけど大丈夫。

お前の力になりたいって誰もが思ってるんだ。

だから、頼っていいんだ。全部をお前が背負う必要なんてないんだから。

セフィロス、お前が幸せになることが俺の最期の願いだ。

俺と居た頃よりずっと幸せになってくれ。

それで時々俺のことを思い出してくれたら充分だ。

セフィロス、愛してるよ。今この瞬間もお前に会いたい。

 

そろそろ時間みたいだ。

セフィロス、癇癪もちなお前がこの手紙を最後まで読んでくれることを祈っている。

 

 

 

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「どうだ。死の瀬戸際で書いた手紙を平常時に読むというのは。

どういう気持ちなのか教えてくれないか?俺にはそういう状況が無いものでな」

 

ひらひらとセフィロスの艶やかな手が薄い紙切れを揺らす。

そこには無機質な文字が並んでいたが、それは他でもないザックスが送ったもの。

それまで彼の腰に唇を押し付けていたその手紙の差出人はゆっくりと顔を上げる。

その表情は明らかに不機嫌そのものだ。

「ムードが足りないとでも言いたいのか?」

そう言うセフィロスに髪を撫で上げられ、彼は微かに肩を震わせた。

それが欲望の炎だと悟られないよう、ザックスは努めて硬い声を出す。

「あれを書いた時の俺の気持ちなんてお前に分かるわけがない」

しかしそんなザックス以上にセフィロスが見せた表情の方が遥かに硬いものだった。

「セフィロス?」

どうした、と言いかけた言葉は降りてきた唇によって飲み込まれてしまう。

絡み合った舌が、伏せられた瞼が、セフィロスの心を表している。

ただ、どうして彼がそんな心情を晒すのかがザックスには分からない。

 

「お前だって、あんな物を読まされる俺の気持ちが分かるわけがない」

 

ああ―

ザックスはその瞬間に全てを悟る。

 

帰り支度を始める頃、突然届いた遠い場所に居る相手からのメール。

開いてみればまるで遺言のようなその内容。

 

「電話をかけても繋がらなかった」

「電波なんてあって無いようなもんだったんだ」

「お前の死亡報告書が届くのではないかと気が気じゃなかった」

「―うん」

「お前がこんなものを送ってくるせいでここにも帰れなかった」

「―うん」

 

相手の名残が残っているこの家で普段通りに暮らせるわけがない。

その全てに相手との思い出が詰まってしまっている。

 

「わざわざプリントして読み上げるぐらいの厭味は許せ」

「ああ、許すよ。許さないわけがない」

 

まるでザックスが許されたいと願う子どものようにセフィロスの腰に腕を回し、呟く。

「ごめんなセフィロス。もう二度とあんなものは送らない。もう二度と死ぬかもしれないなんて思わない。お前を一人にはしないよ。約束する」

 

ザックスはそれだけ言うと、未だセフィロスの手に残っていた過去の不安を奪い、丸め捨てた。

 

幸せになりたいと願うのは貴方とだけ。